未成年者がいる相続登記:手続はどう進める?
「家族が亡くなったが、相続人の中に未成年の子ども(又は孫)がいる」
「手続を進めたいが、子どもはまだ18歳になっていない。どうすればいい?」
このようなお悩みをお持ちではないでしょうか。
ご家族を亡くされた後の相続手続は、ただでさえ複雑です。その上、相続人の中に未成年者がいる場合、手続はさらに慎重に進める必要があります。特に、2024年(令和6年)4月1日には相続登記の申請が義務化されており、相続手続を先送りにすることはできません。
なぜ未成年者がいると通常の手続と異なるのか、そしてどのように相続登記の申請まで進めればよいのか。この記事では、相続登記の専門家である司法書士が、未成年者が関わる相続手続の重要なポイントと具体的な進め方について、わかりやすく解説します。
第1章:相続登記と未成年者
相続が発生した場合、亡くなった方(被相続人)名義の不動産については、相続人の名義に変更する必要があります。これが「相続登記」です。
相続登記を行う前提として、まず「誰がどの財産をどれだけ相続するか」を相続人全員で決める必要があります。この話し合いを「遺産分割協議」と呼びます。
ただし、相続人に未成年者(※)がいる場合、この遺産分割協議には特別な対応が必要となります。
※民法改正により、2022年(令和4年)4月1日から成年年齢は18歳に引き下げられました。この記事では18歳未満の方を「未成年者」として扱います。
第2章:なぜ未成年者がいると手続が複雑になるのか?
手続が複雑になる理由は、民法が未成年者を保護するために定めた2つの大きなルールにあります。
ポイント1:未成年者は、単独では「遺産分割協議」における合意ができない
遺産分割協議は、相続人全員の合意によって成立する「法律行為」です。 未成年者は、原則として、法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければなりません。そのため、相続人に未成年者が含まれる遺産分割協議においては、未成年者については、親権者などの「法定代理人」が本人に代わって協議に参加(及び合意)し、署名押印する必要があります。
ポイント2:「利益相反」というハードル
ところが、法定代理人である親権者自身も相続人である場合、親権者と未成年者との間で「利益相反」が生じてしまいます。
例えば「母親(親権者)」と「未成年の子」が相続人だとします。 この場合、母親が自分の相続分を多くすれば、子の相続分は少なくなります。逆に、子の相続分を多くすれば、母親の相続分は少なくなります。このように、一方の利益が、もう一方の不利益になる関係を「利益相反(りえきそうはん)」と呼びます。
民法では、このような利益相反にあたる行為について、親権者が子を代理することを禁止しています。つまり、親権者自身も相続人である場合、その親権者は未成年の子の代理人として遺産分割協議に参加することができません。
第3章:具体的な手続の流れ
では、実際の手続はどのように進むのでしょうか。利益相反の「あり・なし」や、遺言書の有無によって進め方が異なります。
ケース1:親権者(親)も共同相続人である場合(利益相反あり)
最も一般的なケースです(例:父が亡くなり、相続人が母と未成年の子)。 この場合、親権者は子の代理人になれないため、家庭裁判所に対して「特別代理人」の選任を申し立てる必要があります。
特別代理人とは、その案件(今回の場合は遺産分割協議)に限り、未成年者の代理人となる人のことです。
【手続の流れ】
1.家庭裁判所への申立て: 親権者などが、子の住所地を管轄する家庭裁判所に「特別代理人選任申立て」を行います。
2.特別代理人の選任: 裁判所が申立てを相当と認めたときは、特別代理人を選任します(申立時に候補者を立てることが一般的です。)。
3.遺産分割協議: 親権者(相続人本人として)と、選任された特別代理人(子の代理人として)が遺産分割協議を行います。
4.相続登記の申請: 遺産分割協議が成立したら、登記申請に必要な書類を揃えて、法務局に相続登記を申請します。
(注意点)
未成年者が複数いる場合: 未成年者が2人、3人といる場合、それぞれの未成年者について利益が相反するため、未成年者それぞれに別々の特別代理人を選任する必要があります。
申立ての準備: 申立てには、遺産分割協議書の「案」や、相続関係を証明する戸籍謄本等、財産の資料などが必要となり、準備に時間がかかります。
ケース2:親権者(親)が相続人ではない場合(利益相反なし)
例えば、祖父が亡くなり、相続人が「祖母」と「未成年の孫(すでに亡くなっている子の代襲相続人)」であるケースを考えます。 この場合、孫の親権者(例:亡くなった子の配偶者)は、祖父の相続において相続人ではありません。
この場合、親権者と未成年の孫との間には利益相反の関係がないため、親権者はそのまま法定代理人として遺産分割協議に参加することができます。特別代理人を選任する必要はありません。
ケース3:遺言書がある場合
亡くなった方が法的に有効な遺言書(公正証書遺言や自筆証書遺言(※))を残しており、その内容が「誰にどの不動産を相続させる」と具体的に指定されている場合は、原則として遺産分割協議は不要です。
その遺言書の内容に基づいて、未成年者自身が(又は親権者が法定代理人として)相続登記を申請することができます。この場合も、特別代理人の選任は必要ありません。
※自筆証書遺言については、法務局保管のものでない場合は、家庭裁判所での検認手続が必要です。
第4章:相続登記の義務化にご注意
2024年(令和6年)4月1日から相続登記の申請が義務化され、「相続の開始及び所有権を取得したことを知った日から3年以内」に登記を申請する義務が生じることとなりました。正当な理由なく相続登記の申請を怠ると、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。(ご参考:https://souzoku.shiho-shoshi.or.jp/column/032/)
また、相続登記の申請を放置すれば、不動産の売却ができない、次の相続(数次相続)が発生して権利関係がさらに複雑化するなど、過料とは別のリスクも残ります。
まとめ:未成年者がいる相続は、まず司法書士へ
相続人に未成年者が含まれる場合、遺産分割協議や家庭裁判所への申立てなど、通常よりも専門的な知識と手続が必要となります。また、相続登記の申請義務化により、手続を先延ばしにするデメリットも大きくなりました。
「何から手をつければいいか分からない」
「うちの場合は特別代理人が必要なのか知りたい」
「相続登記の期限が迫っている」
このようなお悩みや不安をお持ちの方は、手続が複雑化する前に、ぜひお近くの司法書士にご相談ください。 私たち司法書士は、相続登記の専門家として、戸籍の収集から遺産分割協議書の作成、家庭裁判所へ提出する申立書類の作成、そして法務局への登記申請まで、皆様の状況に合わせた最適な手続を一貫してサポートさせていただきます。
