はじめに

相続登記の申請義務化に際し、令和3年改正民法・不動産登記法に基づく登記制度のうち、相続登記の申請と関係が深く、かつ、多くの利用があると考えられる以下のものについて、それらの概要と実務上の留意点を示すこととする。

第1  既施行分
 1   遺贈による所有権の移転登記手続の簡略化
 2   法定相続分での相続登記された場合における登記手続の簡略化
 3  所在等不明共有者の不動産持分の取得
第2  令和6 年4 月施行分
 1  相続人申告登記
 2   外国に住所を有する外国人又は外国法人が所有権の登記名義人となる登記の申請をする場合の住所証明情報

第1 既施行分

1  遺贈による所有権の移転登記手続の簡略化

⑴ 制度趣旨及び概要

相続人に対する遺贈による所有権の移転の登記については、登記権利者による単独申請が許容されている(不登63Ⅲ)。これは、相続人に対する遺贈と、いわゆる特定財産承継遺言との間の実務上の差異が小さいことに着目し、今般義務付けられる相続登記申請手続の簡略化を目的として設けられた制度の一つである。

⑵ 登記の目的、登記原因及び申請人

登記の目的、登記原因及び申請人については、権利者の単独申請となる点及び義務者として遺贈者の住所及び氏名を申請情報の内容とすれば足りる点を除けば、従前の遺贈の登記と同様である。

⑶ 添付情報

添付情報としては、権利者の住所を証する情報及び遺言書等の遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)によって所有権を取得したことを証する情報のほか、戸籍全部事項証明書等の相続があったことを証する情報の提供を要する(不登記令別表30の項添付情報欄ロ)。
これらに加え、遺贈者である被相続人の最後の住所及び氏名が登記記録上の住所及び氏名と異なる場合や、遺贈者の本籍が登記記録上の住所と異なる場合であって、遺贈者が登記記録上の所有者であるときは、これらを証する戸籍の附票等、当該被相続人の同一性を証する情報を提供すれば足りる。そのため、不動産登記法63条3 項に基づき登記権利者が相続人に対する遺贈による所有権の移転の登記を単独で申請するときは、前提として、被相続人に係る登記名義人の氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記又は更正の登記の申請を要しない。(法務省HP「令和5 年4月版 登記申請手続のご案内(遺贈による所有権移転登記/相続人に対する遺贈編)〔令和5年4 月1 日施行の新制度対応版!〕」19~20ページ)
なお、相続人に対する遺贈による土地の所有権の移転については、従前どおり、農地法3 条1 項の許可を要しない点にも、注意が必要である(農地法3 条1 項16号、同法施行規則15条5 号及び平成24年12月14日付民二3486号通達)。
上記以外の添付情報は、権利者の単独申請であることによる内容の変更がある点を除けば、従前の所有権の移転の登記と同様である。

⑷ 記載例

登記申請情報の主な部分の記載例は、次のとおりである法務省HP「令和5 年4 月版登記申請手続のご案内(遺贈による所有権移転登記/相続人に対する遺贈編)〔令和5 年4 月1 日施行の新制度対応版!〕」 3 ~17ページ参照

登記の目的 所有権移転
原因 年月日遺贈
権利者(申請人) 住所 某
義務者 住所 某
添付情報 登記原因証明情報 住所証明情報 代理権限証明情報
(以下略)

2  法定相続分での相続登記された場合 における登記手続の簡略化

⑴ 制度趣旨及び概要

法定相続分での相続登記がされた後に行う次の4 つの登記手続については、所有権の更正の登記によることができるものとした上で、登記権利者が単独で申請することができる(不登63Ⅱ参照・令和5 年3 月28日付法務省民二第538号通達第3 の1 ⑴)。これは、法定相続分での相続登記をしないで⑴から⑷の登記を直接申請したときと同程度の手続負担となるよう、当事者の負担の軽減を図ったものである。
 ① 遺産の分割の協議又は審判若しくは調停による所有権の取得に関する登記
 ② 他の相続人の相続の放棄による所有権の取得に関する登記
 ③ 特定財産承継遺言による所有権の取得に関する登記
 ④ 相続人が受遺者である遺贈による所有権の取得に関する登記
もっとも、これらの簡略化は、法定相続分で相続登記がされている場合についてのみの特例である。また、当該場合であってもこれらの簡略化の利用が義務づけられているわけではなく、従来の取扱いも可能である。例えば、①の場合であっても、これまでどおり持分の移転の登記を共同申請することもできる。

⑵ 登記の目的、登記原因及び申請人

登記の目的及び申請人については、権利者の単独申請となる点を除けば、従前の所有権の更正の登記と同様である。
他方、登記原因及びその日付は、「錯誤」「遺漏」ではなく、前頁⑴の①から④に応じ、以下のとおり限定されている(令和5 年3 月28日付法務省民二第538号通達第3 の1 ⑵)。
 ⑴①の場合 「年月日【遺産分割の協議若しくは調停の成立年月日又はその審判の確定年月日】遺産分割」
 ⑴②の場合 「年月日【相続の放棄の申述が受理された年月日】相続放棄」
 ⑴③の場合 「年月日【特定財産承継遺言の効力の生じた年月日】特定財産承継遺言」
 ⑴④の場合 「年月日【遺贈の効力の生じた年月日】遺贈」

⑶ 添付情報

義務者の登記識別情報は、権利者の単独申請であるため、不要である。
義務者の印鑑証明書も、同様に不要である。もっとも、上記⑴の場合、後述の登記原因証明情報の一部として、相続人としての印鑑証明書の提供を要する場合があるので、注意を要する。
登記原因証明情報は、上記⑴の①から④に応じ、以下のようなものが該当する(令和5年3 月28日付法務省民二第538号通達第3 の1 ⑶)。
 ⑴①の場合 遺産分割協議書(当該遺産分割協議書に押印した権利者以外の相続人の印鑑証明書(作成後3 か月以内である必要はない)を含む。)、遺産分割の審判書の謄本(確定証明書付き)又は遺産分割の調停調書の謄本
 ⑴②の場合 相続放棄申述受理証明書及び相続を証する市町村長その他の公務員が職務上作成した情報(公務員が職務上作成した情報がない場合にあっては、これに代わるべき情報)
 ⑴③又は④の場合 遺言書(家庭裁判所による検認が必要なものにあっては、当該検認の手続を経たもの)
上記以外の添付情報は、権利者の単独申請であることによる内容の変更がある点を除けば、従前の所有権の更正の登記と同様である。

⑷ 登録免許税

更正する不動産1 個につき1,000円である(登録免許税法別表第1 ・1 ・⒁)。
この点、更正の対象となる不動産が多数あり、かつ、それらの固定資産税評価額の合計額が著しく低額であるときは、従来の取扱いの方が、登録免許税が低額になることもあるので、注意が必要である。

⑸ 他の相続人に対する通知

登記権利者が単独で上記⑴の③又は④の登記の申請をしたときは、登記官は、登記義務者に対し、その旨の通知を行う(不登規則183Ⅳ)。
なお、この通知の効力は、単なる登記義務者への情報提供の域を出ない。したがって、この通知を受けた登記義務者が別途、民事保全手続その他の登記の差止めに係る手続を行わない限り、登記官が上記⑴の③又は④の事実に基づく登記手続の処理を中止・停止することはない。

⑹ その他

以上の取扱いは、上記⑴の①から④の事実に基づく所有権の更正の登記の細目を明らかにするにとどまっている。
したがって、是正前後の同一性、巻き戻し更正及び名変登記の要否等、当該取扱いの中で言及されていない論点については、なお検討を要する部分があるので、注意を要する。

⑺ 記載例

例えば、前々頁⑴の場合において、甲土地の登記記録に登記されたX・Y共有名義の法定相続分による相続登記を、X単有の相続登記に更正するときの登記申請情報の主な部分の記載例は、次のとおりである。

登記の目的 何番所有権更正
原因 年月日遺産分割
更正後の事項 所有者 X
権利者(申請人) 住所 X
義務者 住所 Y
添付情報 登記原因証明情報 代理権限証明情報
登録免許税 金1,000円
(以下略)

3  所在等不明共有者の不動産持分の取得

⑴ 制度趣旨及び概要

不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該所在等不明共有者の持分を取得させる旨の裁判をすることができる(民法262の2 Ⅰ)。所有者不明土地問題の解決上、不動産における所在等不明共有者との共有解消の必要性は高く、共有物分割の訴えでも対応不能な部分があるため、当事者の負担を軽減しつつ、当該訴えの補完となるよう整備された制度である。

⑵ 遺産共有の不動産への適用

所在等不明共有者の不動産持分の取得制度は、遺産共有を含む不動産にも適用の余地がある。すなわち、取得の対象となる所在等不明共有者の持分が物権共有持分である等、当該持分が共同相続人間で遺産分割をすべき遺産に属しないものと評価できる場合や、当該持分が当該遺産に属する場合であっても相続開始の時から10年を経過している場合は、⑴の裁判が可能である(民法262の2 Ⅲの反対解釈)。そして、この解釈の結果、例えば次の①及び②のように、相続によって遺産共有持分権を取得したものの当該相続の開始の時から10年を経過していない相続人において、⑴の裁判の申立てをすることができるケースも存在する。
 ① ⑴の裁判の申立ての対象となる所在等不明共有者の持分が遺産に属しない場合
 例えば、A及び所在不明であるBが各2分の1 の持分を有する物権共有の土地がある場合において、Aが死亡してその相続人であるC及びDが各2 分の1 の法定相続分で相続したときは、C又はDは、Aの相続開始から10年を経過する前に、Bの持分につき⑴の裁判の申立てをすることができる(法制審議会民法・不動産登記法部会資料42第1 の3 )。
 ② ⑴の裁判の申立ての対象となる所在等不明共有者の持分が数次相続における遺産に属する場合において、当該申立ての対象となる所在等不明共有者の持分につき相続開始の時から10年を経過していると評価する余地があり、かつ、当該申立てによって所在等不明でない他の共有者における遺産分割請求の利益を害しない場合
 例えば、不動産の所有権者であるXが10年以上前に死亡し、その子であるA及びBがXを相続し、次に5 年前にA及びBが死亡し、Aの子であるE及びF並びにBの子であるC及びDがそれぞれ相続をした場合において、Eのみが所在不明であるときは、E以外の共有者はあと5 年待たなければEの遺産共有持分につき⑴の裁判の申立てをすることができない。しかし、E及びFがいずれも所在不明であるときは、C又はDは、直ちにE及びFの遺産共有持分につき本申立てをすることができる(法制審議会民法・不動産登記法部会第17回議事録63ページ脇村関係官発言)。これは、Eのみが所在不明であるときは、Fの遺産分割を請求する利益が損なわれる可能性がある一方、E及びFがいずれも所在不明であるときのE及びFの遺産共有持分については、いまだXの相続財産に属していると評価できるからである。
そのため、例えば、長期相続登記未了土地に所在等不明共有者が存在するようなケースにおいては、⑴の裁判を行うことで、遺産分割協議を経ることなく、当該土地の所在等不明共有者の持分を解消することができる場合が少なくない。
なお、⑴の裁判に基づき取得した持分は、物権共有持分となり、共有物分割の対象となるのが原則である。しかし、実際の事件においては、当該持分を民法906条の2 第1 項の「処分された遺産」とみることができる場合もあり、その場合には、同条適用のもとで遺産分割協議を行うことも許容される。
以下、実体上の検討及び裁判の手続については他稿に譲ることとして、⑴の裁判に基づく持分移転の登記について述べる。

⑶ 登記の目的、登記原因及び申請人

登記の目的は、従前の持分の移転の登記と同じである。
登記原因は、「年月日民法第262条の2 の裁判」であり、その日付は、⑴の裁判が確定した日である(令和5 年3 月28日付法務省民二第533号通達第1 の7 ⑵)。
⑴の裁判は、所在等不明共有者に登記手続を命じるものではないが(不登63Ⅰ参照)、⑴の裁判に係る請求をした共有者は、登記手続上、所在等不明共有者の代理人になると解される(令和5 年3 月28日付法務省民二第533号通達第1 の7 ⑵)。その結果、当該裁判に基づく持分の移転の登記は、権利者である共有者が単独で申請することになる。

⑷ 添付情報

登記原因証明情報は、確定裁判に係る裁判書の謄本(確定証明書付)であり、これが、義務者である所在等不明共有者の代理権限証明情報を兼ねる。
義務者の登記識別情報及び印鑑証明書は、不要である。
上記以外の添付情報は、権利者の単独申請であることによる内容の変更がある点を除けば、従前の持分の移転の登記と同様である。

⑸ その他

実務上、⑴の裁判に基づく持分移転の登記の申請をするに当たっては、当該裁判の対象となる不動産に係る法定相続による相続登記等、何らかの前提登記が必要な場合が少なくない。
これらの前提登記は、⑴の裁判を申し立てるときの民法上の要件ではない。しかし、登記の連続性の観点上、⑴の裁判に基づく登記を申請するときには、前提登記の申請が不可避となる。この点、所在等不明共有者が死亡していることは判明したがその相続人のあることが明らかでない場合については、通達上の救済処置があるものの(令和5 年3 月28日付法務省民二第533号通達第1 の7 ⑵)、それ以外の前提登記については、通達上、特段の手当はされていない。また、当該救済処置も、⑴の裁判の対象となる持分が相続財産法人に帰属する旨が記載された確定裁判に係る裁判書の謄本が、代理権限証明情報及び登記名義人の氏名変更を証する情報となるので(令和5 年3 月28日付法務省民二第533号通達第1の7 ⑵)、⑴の裁判の決定が出るまでに、当該帰属の事実を把握しておく必要がある。
よって、前提登記については、⑴の裁判の申立て前の準備あるいは事前調査の一つとして、可能な限りあらかじめ申請を済ませる実務姿勢が求められよう。

⑹ 記載例

例えば、X・Y共有名義で贈与による所有権の移転の登記がされた甲土地につき、Xが所在等不明となったため、Yが民法262条の2 の裁判に基づきXの持分を取得したときの登記申請情報の主な部分の記載例は、次のとおりである。

登記の目的 X持分全部移転
原因 年月日民法第262条の2 の裁判
権利者(申請人) 住所 Y
義務者 住所 Z
添付情報 登記原因証明情報 住所証明情報 代理権限証明情報
(以下略)

第2 令和6年4月施行分

令和6 年4 月施行の相続登記の申請義務化についての基本的な考え方や実務の在り方は、他に記載のとおりであるが、ここでは、同月施行の改正不動産登記規則に基づき、司法書士業務の視点から実務上のポイントを述べる。
なお、当該改正不動産登記規則には、以下の項目以外にも、法制審議会民法・不動産登記法部会上言及又は要望のあった各種論点が制度化されているので、注意を要する。

1  相続人申告登記

⑴ 制度概要及び趣旨

令和6 年4 月1 日から、相続人申告登記制度が開始される。この制度は、相続人間のトラブル等その他の事情により、今般義務化された相続登記を申請できない場合の一時的な取扱いとして、相続(遺言も含む)によって被相続人の不動産を取得した相続人が、法務局に対し、自らが相続人である旨を申し出る制度である。この申出によって、登記官が、職権で、その旨並びに当該申出をした者の氏名及び住所等を所有権の登記に付記することになる(不登76の3 Ⅲ)。
上記の相続人が、その取得を知った日から3 年以内にこの申出を行えば、相続登記の申請義務を履行したものとみなされる(不登76の3 Ⅱ)。
ただし、相続登記の申請ではないので、この申出をしても登記記録上の所有者は被相続人のままであり、持分の公示や登記識別情報の通知はされない。また、遺産分割協議が整えば、その時点から3 年内の相続登記の申請が、再度、義務づけられる(不登76の3 Ⅳ)。さらに、後述⑶のとおり、一度登記された相続人申告登記の抹消を申請できる局面は、限定されている(不登規則158の28Ⅰ)。
よって、実務上、相続人申告登記は、所有権の登記名義人の死亡後、法定の期間内に遺産分割協議の結果等に基づく終局的な相続登記を申請できず、かつ、過料の賦課に係る「正当な理由」(不登164・なお、過料の賦課手続に関する令和5 年9 月12日付法務省民二第927号通達第3 の1 から3 参照)を認めにくいときの、最終手段として活用すべきであろう。

⑵ 申出情報及び添付情報

不動産登記法76条の3 第1 項の規定による申出(以下「相続人申出」という。)は、所有権の登記名義人及び中間相続人(以下「登記名義人等」という。)の氏名及び最後の住所、登記名義人等の相続開始の年月日並びに申出人及び中間相続人が相続人である旨の3 点の明示を要する点を除けば、相続登記の申請と類似する。もっとも、数次相続のときは、一代ごとに中間相続人の相続に係る事項も同時に申し出ることになる(不登規則158の19、同158の23)。また、相続人申出は、書面又はオンラインによってすることができる(不登158の4 )が、司法書士が相続人申出をするときは、当該司法書士の押印又は電子署名を要する(司法書士法施行規則28ⅠⅡ)。
相続人申出の添付情報としては、次の2つを要する。
ア 相続人であることを証する情報
 相続人であることを証する情報のうち、戸籍事項証明書又は法定相続情報一覧図の写し(以下「戸籍関係書類」という。)については、次の2 点を証するものであることが求められる(不登規則159の19Ⅱ①及び同③イ)。
① 登記名義人等の死亡を証するもの
② 申出人が登記名義人等の相続人であることを証するもの
上記①及び②の結果、申出人以外の他の相続人に係る現在の戸籍関係書類の提供は不要となる。この点に着目すれば、相続登記の申請に比べ添付情報が簡略化されたと言えよう。
また、相続人であることを証する情報のうち、被相続人の戸籍の附票等、被相続人の同一性を証する情報については、提供を要するのが原則であるが、上申書に添付する印鑑証明書は、申出人のもののみで足りる。
イ 申出人及び中間相続人の住所証明情報
 申出人及び中間相続人の住所証明情報については、相続登記の申請と同様のものが求められるのが原則であるが(不登規則159の19Ⅱ②及び同③ロ)、住基ネット検索に必要な氏名、氏名の振り仮名若しくはローマ字氏名、住所及び生年月日を提供することをもって、これらの住所証明情報の提供に代えることができる(不登規則158の21)。
また、中間相続人の住所については、当該住所に代えて中間相続人の最後の本籍を相続人申出の内容とすることもでき、この場合には、上記ア①の戸籍関係書類を添付すれば足りる。

⑶ 相続人申告登記の変更・更正及び抹消

相続人申告登記の登記事項に変更又は錯誤・遺漏があったときは、当該相続人又はその相続人は、登記官に対し、当該登記事項の変更又は更正を申し出ることができる(不登規則158の24Ⅰ)。当該登記事項は、例えば、相続人の転居等によって変更されることがあるので、これらの申出を認めることで、所有者不明土地等の発生防止につなげる趣旨である。
他方、相続人申告登記の抹消の申出は、実務上、相続人申告登記で付記された相続人が相続の放棄をし、又は民法891条の規定に該当し若しくは廃除によってその相続権を失った場合に限られる(不登規則158の28Ⅰ②)

⑷ 登録免許税

相続人申告登記及びその変更、更正又は抹消は、いずれも各申出を受けた登記官の職権でされるものであり、申出人に登録免許税の負担は生じない。

⑸ その他

上記⑵から⑷に係る詳細については、通達(令和6 年3 月15日付法務省民二第535号通達)も発出されているので、適宜、参照されたい。
なお、申出人は、相続人申出をするときに、旧氏併記の申出をすることができる(不登規則158の37)。また、申出人が日本国籍を有しないときは、相続人申出をするときに、氏名の表音をローマ字で表示したもの(以下「ローマ字氏名」という。)を申出情報の内容として、当該ローマ字氏名を併記する形で登記記録に記録する旨の申出(以下「ローマ字氏名の併記の申出」という。)をするものとされている(不登規則158の33)。
旧氏併記の申出及びローマ字氏名の併記の申出については、いずれも、実務上の取扱いが複雑である。これらについて機会があれば、稿を改めて述べることとしたい。

⑹ 記載例

例えば、X名義で所有権の登記がされた甲土地につき、令和2 年1 月30日にXが亡くなった後、令和6 年5 月31日にXの唯一の相続人であるYも亡くなったため、令和6 年7
月31日にYの配偶者であるZが甲土地を管轄するA法務局に相続人申出をするときの相続人申出情報の主な部分の記載例は、次のとおりである。

申出の目的 相続人申告
Xの相続人
 相続開始年月日 令和2 年1 月30日
       住所 Y
      (氏名ふりがな(略))
      (生年月日(略))
Yの相続人
 相続開始年月日 令和6 年5 月31日
 (申出人) 住所 Z
      (氏名ふりがな(略))
      (生年月日(略))
添付情報  第一次相続人が登記名義人の相続人であることを証する情報
     第一次相続人の住所証明情報
     申出人が第一次相続人の相続人であることを証する情報
     申出人の住所証明情報
(以下略)
令和6 年7 月31日 申出 A法務局

2  外国に住所を有する外国人又は外国 法人が所有権の登記名義人となる登記 の申請をする場合の住所証明情報

⑴ 制度の概要及び趣旨

外国に住所を有する外国人又は外国に住所を有する法人(会社法人等番号を有するものを除く。)が登記の申請により新たに所有権の登記名義人となるときは、後述⑵又は⑶の情報を提供することとされた(令和5 年12月15日付法務省民二第1596号通達)。これらの者の住所証明情報については、登記所における運用のばらつきや不明確な点があったほか、所有者不明土地等の発生防止の観点から所有権の登記名義人である外国人の特定を行う必要性があることから、考え方の整理がされたものである。

⑵ 自然人である外国人の場合

外国に住所を有する外国人の住所証明情報としては、次のア又はイを住所証明情報として添付することとされた。
なお、住所証明情報が外国語で作成されているときは、訳文の添付も求められるが、必ずしもその全文を翻訳する必要はなく、証明に関係する部分のみの翻訳、基本的には、書面の表題(名称)、氏名若しくは名称又は住所、発行日、有効期間、有効期限、発行機関及び証明する旨の記載(証明力の制限に係る事項があれば当該事項を含む。)のみの翻訳で足りる。もっとも、当該部分のみの翻訳であるときは、訳文を記録した情報内に、翻訳を省略した事項を記録することを要する。
ア  登記名義人となる者の本国又は居住国の政府の作成に係る住所を証明する書面(これと同視できるものを含む。)
 アは、端的には、日本の住民票の写しに相当する書類又は電子データに相当する情報である。もっとも、これらは入手困難であることが少なくなく、利用局面は限られ
よう。
イ ①登記名義人となる者の本国又は居住国の公証人の作成に係る住所を証明する書面(宣誓供述書等)及び②旅券の写し
 イは、アの代替であり、現実に広く用いられることが多いと考えられる。さらに、イの①及び②については、追加の代替処置が設けられている。
 まず、①につき、やむを得ない事情で登記名義人となる者の本国等の公証人の作成に係る住所を証明する書面を取得することができないときは、日本の公証人の作成に係る住所を証明する書面及び当該取得をすることができない旨の上申書をもって、①に代えることができる(①’)。
 次に、②につき、登記名義人となる者が旅券を所持していないときは、登記名義人となる者の作成に係る旅券を所持していない旨の上申書及び登記名義人となる者の本国等政府の作成に係る書面又は電磁的記録の写しをもって、②に代えることができる(②’)。
これらにつき、注意すべき点は、次のとおりである。まず、①’及び②’の併用は、できない。また、②の旅券の写し及びその代替となる②’の書面又は電磁的記録の写
しについては、書面が作成された日又は登記申請の受付の日において有効な書面等の写しであることが求められる。②’の書面等は、①又は①’の住所を証明する書面と
の合綴までは要件とされていないが、その場合には、原本と相違がない旨の記載及び登記名義人となる者の署名又は記名押印が必要となる。

⑶ 外国法人の場合

外国に住所を有する法人(会社法人等番号を有するものを除く。)の住所証明情報としては、次のア又はイを住所証明情報として添付することとされた。なお、外国語で作成されているときの訳文の取扱いは、⑵と同様である。
ア 登記名義人となる者の設立準拠法国の政府の作成に係る住所を証明する書面(これと同視できるものを含む。)
 アは、端的には、日本の商業登記事項証明書に相当する書類又は電子データである。もっとも、これらは入手困難であることが少なくない点、⑵と同様である。
イ ①登記名義人となる者の設立準拠法国の公証人の作成に係る住所を証明する書面(宣誓供述書等)及び②登記名義人となる者の名称の記載がある設立準拠法国の政 府の作成に係る書面等の写し等(日本の商業登記事項証明書に相当する内容が記載されているが、住所の記載や記載事項を証明する旨の記載のない政府作成の書面等)
 イは、アの代替であり、現実に広く用いられることが多いと考えられる。さらに、イの①については、追加の代替処置が設けられている。
 すなわち、①につき、やむを得ない事情で登記名義人となる者の本国等の公証人の作成に係る住所を証明する書面を取得することができないときは、代表者等の本国、居住国又は日本の公証人の作成に係る住所を証明する書面及び当該取得をすることができない旨の上申書をもって、①に代えることができる(①’)。
 注意点として、②の設立準拠法国の政府の作成に係る書面等の写し等については、書面が作成された日又は登記申請の受付の日において有効な書面等の写しであることが求められる。これらは、①又は①’の住所を証明する書面との合綴までは要件とされていないが、その場合には、原本と相違がない旨の記載及び登記名義人となる者の代表者等の署名又は記名押印が必要となる。

⑷ その他

本項に関連して、渉外登記を行うときは、次の3 点にも注意が必要である。
まず、新たに所有権の登記名義人となる者が国内に住所を有しないときは、その国内における連絡先となる者の氏名又は名称及び住所その他の国内における連絡先に関する事項、すなわち、国内連絡先事項が登記事項となる(不登73条の2 Ⅰ②)。この点、既存の所有権登記名義人についても、住所の変更又は更正の登記の申請を行うときに問題となり得る(不登令別表23の項申請情報欄ハ)。
また、新たに所有権の登記名義人となる者が会社法人等番号を有しない法人であるときは、法人識別事項として、設立準拠法国又は設立根拠法が登記事項となる(不登73条の2Ⅰ②、不登規則156の2 ②③)。この点、既存の所有権登記名義人については、任意でこれらの法人識別事項の追記を申し出ることができる(不登規則附則2 Ⅰ)。
さらに、日本国籍を有しない自然人が、新たに所有権の登記名義人となるとき又は当該者が既存の所有権の登記名義人である場合において氏名の変更の登記又は更正の登記を申請するときは、登記事項とは別に、ローマ字氏名の併記の申出を行うものとされている(不登規則158の31Ⅰ)。この点、既存の所有権の登記名義人については、任意でローマ字氏名の併記を申し出ることができる(不登規則158の32)。
国内連絡先事項及び法人識別事項の登記並びにローマ字氏名の併記の申出は、いずれも、実務上の取扱いが複雑である。これらについて機会があれば、稿を改めて述べることとしたい。

本記事は、当連合会の機関誌である『月報司法書士』令和6年4月号に掲載された論文を転載しています。

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