相続人の中に海外居住者がいる場合はどうしたらよいか
遺産分割協議
相続が発生した場合、被相続人の遺産については相続人が相続することになりますが、例えば長男が不動産、長女が有価証券など遺産をそれぞれ個別に相続させるためには、特定の遺産を特定の相続人に遺贈する内容の法的に有効な遺言書がある場合を除き、相続人全員で遺産分割協議をする必要があります。不動産や現預金、有価証券の名義変更など相続の手続には遺産分割協議の内容を記録した「遺産分割協議書」が必要になります。
不動産の相続登記
被相続人の遺産の中に不動産が含まれている場合、不動産の登記名義を相続人に変更するためには相続登記が必要になります。相続登記は令和6年4月1日より申請が義務化されておりますので、くれぐれもご注意ください。
不動産の登記名義を相続人に変更する場合、相続人が1名しかいないなどの例外を除き、相続人全員で遺産分割協議書を作成し、原則として相続人全員が実印を押捺し、印鑑証明書を添付する必要があります。同じものがひとつとして存在しない不動産。その不動産の登記名義が相続人に移転する手続ですから厳格な要件が求められます。相続人の中に、まだ印鑑登録をしていない方がいる場合には、各市区町村役場での印鑑登録が必要になります。
相続人に海外居住者がいる
相続登記のために遺産分割協議書を法務局に提出する場合、原則として相続人全員の印鑑証明書が必要になることを前述しましたが、それでは相続人の中に海外居住者がいる場合はどうしたらよいでしょうか。国際結婚や国外移住がめずらしくなくなった昨今、日本人でも日本に住所があるということはもはや当たり前ではなくなりました。印鑑証明書を取得できるのは日本に住所がある方のみとなります。海外に住所がある方は日本の印鑑証明書を取得することができません。このような場合、どうしたらよいのでしょうか。
署名証明書
印鑑証明書の代わりに、署名証明書が必要になります。
署名証明書は外務省のウェブサイトに次のように説明されています。
「日本に住民登録をしていない海外に在留している方に対し、日本の印鑑証明に代わるものとして日本での手続のために発給されるもので、申請者の署名(及び拇印)が確かに領事の面前でなされたことを証明するものです。
証明の方法は2種類です。形式1は在外公館が発行する証明書と申請者が領事の面前で署名した私文書を綴り合わせて割り印を行うもの、形式2は申請者の署名を単独で証明するものです。どちらの証明方法にするかは提出先の意向によりますので、あらかじめ提出先にご確認ください。」
在外公館は具体的には大使館、総領事館のことです。形式1は貼付型や合綴型と呼ばれ、遺産分割協議書と署名証明書が一緒に綴じられることになります。海外居住者が直接海外にある在外公館に出向き、大使館や総領事館の職員等の面前で遺産分割協議書に署名することになりますのでご注意ください。形式2は独立型や単独型と呼ばれ、署名証明書のみが交付されます。相続登記に使用する際は、在外公館で取得する前に依頼する司法書士にあらかじめ確認することをおすすめいたします。署名証明書の形式は在留する国によっても違い、相続登記に使用可能かどうかはその都度確認が必要になります。取得が二度手間にならないように慎重に進めてください。
在留証明書
署名証明書の他に、在留証明書が必要になることもあります。
在留証明書は外務省のウェブサイトに次のように説明されています。
「外国にお住まいの日本人がどこに住所(生活の本拠)を有しているか、又は、どこに住所を有していたかをその地を管轄する在外公館が証明するものです。
在留証明は、一般的には現在外国にお住まいの方(日本に住民登録のない方)が不動産登記、恩給や年金手続、在外子女の本邦学校受験の手続等で、日本国内の提出先機関から外国における住所証明の提出が求められている場合に発給される一種の行政証明です。」
在留証明書が必要になるのは、署名証明書に住所の記載がないときです。日本の印鑑証明書には住所、氏名、生年月日が記載されていますが、海外で発行される署名証明書には住所の記載がないことがあります。住所が記載されていない署名証明書の場合、相続登記に使用するには情報が不足することになります。そのため、在留証明書を署名証明書と合わせて提出することで、住所の記載を補足することになります。在留証明書を後から取得するとなると負担が大きいため、署名証明書と在留証明書ははじめからセットで取得されるとよいでしょう。
まとめ
相続人の中に海外居住者がいる場合、署名証明書と在留証明書が必要になることについてお伝えしました。日本の場合、印鑑証明書を取得する負担は大きくありません。マイナンバーカードの普及と機能拡張により、コンビニで取得することが可能になりました。しかし、署名証明書の場合は在外公館に直接出向く必要があります。国によっては国土が広く片道何時間もかけて出向く必要があり取得の負担は小さくありません。また、国際郵便などを利用して日本に原本を送付してもらう必要もあり、手間も時間も費用もかかります。スムーズな手続を実現するため、相続人の中に海外居住者がいる場合など相続登記の依頼についてはお近くの司法書士にご相談していただくことをおすすめいたします。