旧民法の「家督相続」と現在の相続、どう違う?
旧民法における「家督相続」と現在の民法における相続は、根本的な考え方が全く異なります。
一言でいうと、旧民法における家督相続は「『家』という組織を維持するために、リーダー一人に全てを集中させる制度」であり、現在の民法における相続は「個人の財産を、家族で公平に分け合う制度」です。主な違いをわかりやすく比較表にまとめました。
大きな3つの相違点
(1)「1人」か「全員」か
家督相続は、長男が「次の戸主(リーダー)」として、家の一切の財産(土地、家屋、家財道具、さらには家名や位牌まで)を丸ごと引き継ぎました。二男や三男、長女、二女などには基本的に相続権がなく、家を出るのが一般的でした。一方、現在の民法では、子どもは男女や出生順に関係なく、全員が平等な権利を持っています。
(2)「生前」に発生するか
現在の相続は、人が亡くなった瞬間に始まります。しかし、家督相続は「隠居(いんきょ)」といって、戸主が生きているうちに家督を譲ることで発生する場合もありました。また、女戸主が婿養子を迎えた場合なども、相続(戸主の交代)の理由となりました。
(3)「責任」の重さ
家督相続人は、財産を独占できる代わりに、家族全員を養う義務や、先祖を祀る義務、そして前戸主の多額の借金もすべて引き継がなければなりませんでした。 現在のように「借金が多いから相続を放棄する」という自由は原則として認められていませんでした。
なぜ今でも「家督相続」という言葉を聞くの?
1947年(昭和22年)に家督相続制度は廃止されましたが、今でも年配の方や地方を中心に「長男が継ぐべきだ」という文化的な意識が残っていることがあります。しかし、現在の民法における相続では「家督相続を発生させるべきである」という主張について、法的な意味を持ちません。遺言書がない限り、特定の1人が全てを相続するには、他の相続人全員の合意(遺産分割協議)が必要です。
以下、家督相続が絡む現代のトラブルで最も多い「古い登記名義が残っている場合」や「家督相続の意識が残っている場合」の進め方について、実務的なポイントを解説します。
(1)「明治・大正時代の登記名義」が残っている場合
古い土地などで、曾祖父や高祖父の名義のまま放置されているケースがあります。この場合、当時の「家督相続」が発生しているかどうかが重要になります。
・1947年(昭和22年)5月2日以前に登記名義人である当時の戸主が亡くなっていたり隠居したりしていた場合:
→その時点の「家督相続人(基本は長男)」が一人で相続したものとして扱います。
・それ以降に登記名義人が亡くなっている場合:
→亡くなった当時の配偶者や子などが共同して相続したものとして扱います。
※注意点: 2024年(令和6年)4月から相続登記の申請が義務化されました。古い登記名義を放置しておくと過料の対象になる可能性があるため、早めの登記手続が推奨されます。
(2)「長男が継ぐべき」と言われたときの対処法
親戚の間で「うちは代々長男が継いできたから」と家督相続のような主張が行われることは珍しくありません。しかし、現行の民法では以下の通りの取扱いとなります。
・遺言書がない場合:どんなに「家系」を強調しても、法律上は配偶者及び子ども全員に相続の権利があります。無理に1人にまとめようとすると遺産分割協議が成立せず、家庭裁判所で調停手続を行う必要が生じることもあります。
・財産を分散させないための工夫:特定の人に財産を継がせたい場合は、「遺言書」を準備しておくのが確実な方法です。ただし、他の相続人(兄弟姉妹を除く。)には最低限の取り分である「遺留分(いりゅうぶん)」を請求する権利があるため、注意が必要です。
(3)家督相続の「負の側面」と現在のメリット
昔の家督相続では、債務も強制的に引き継がされましたが、現在は以下の制度で身を守ることができます。
・相続放棄:債務が多い場合、家庭裁判所で手続をすればプラス・マイナス双方の財産一切を引き継がなくて済みます。
・限定承認: プラスの財産の範囲内で債務を返すという選択も可能です。
今後の具体的なアクション
「家督相続」が関わるような古い時代の相続や、複雑な権利関係の整理が必要な場合は、登記の専門家である「司法書士」へ依頼することを強くおすすめします。
なぜ自分で進めるのが難しいのか、司法書士に依頼するメリットを3つのポイントでまとめました。
(1)「戸籍の収集」が極めて困難なため
現在の相続では、亡くなった人の「出生から死亡まで」の戸籍が必要です。家督相続が絡むような古い登記名義を変更する場合、明治・大正・昭和・平成・令和と、何代にもわたる膨大な戸籍を全国から取り寄せなければなりません。
・専門家の力:司法書士は専門的知見を有しているため、これらを効率的に収集することができます。古い「改製原戸籍」などは手書きで読解が難しく、一般の方が正確に読み解くには限界があります。
(2)「家督相続」と「現代の法律」のパズルを解くため
前述の通り、1947年(昭和22年)を境に法律がガラリと変わりました。
・専門家の力:「この曾祖父の時は旧法(家督相続)」「その次の祖父の時は新法」といったように、いつ誰が亡くなったかによって適用される法律を正確に使い分け、誰が本当の法的権利者(相続人)なのかを特定することが可能です。
(3)「相続登記の申請義務化」に対応するため
2024年4月から相続登記の申請が義務化されました。古い名義を放置し続けると、過料の対象になるだけでなく、いざ不動産を売却したり活用したりしようとした際に、何十人もの相続人との間での合意形成が必要となり、事実上「身動きが取れない不動産」になってしまいます。
・専門家の力:司法書士は、依頼を受けて不動産登記の名義変更の手続を行うことができる法律専門家です。複雑な遺産分割協議書の作成から、法務局への申請まで一括して任せることができます。
まとめ:まずは相談から
「家」の財産をめぐる問題は、時間が経てば経つほど相続人が増え、解決が困難になります。
・「先祖の名義がそのままになっている」
・「家督相続だと言い張る親戚がいて困っている」
・「何から手をつければいいか分からない」
このような場合は、まずお近くの司法書士事務所に相談してみてください。
