誰が相続人になりますか?
親族が亡くなったとき、最も気になるのは「誰が亡くなった人の遺産を承継するのか」という点ではないでしょうか。
この記事では、亡くなった人の遺産を承継する相続人の範囲や相続人による遺産分割協議について解説します。
相続の基本を理解することで、遺産分割の際にスムーズな話し合いを進めることができます。
この記事では以下のポイントが分かります。
・相続人とは、亡くなった人の遺産を承継する人のこと
・相続人の範囲は民法で定められている
・相続人を特定するために戸籍謄本等を取得して記載事項を確認する
・相続人全員の協議で遺産分割協議を行うことができる
・不動産や預貯金などの財産以外にも、債務や連帯保証人の地位なども相続する
相続人とは
相続人とは、亡くなった人の遺産を承継する人を指します。
ただし、亡くなった人の「一身専属権」(あとで詳しく説明します。)は除きます。また、墳墓の所有権など祭祀に関する権利も相続財産には含まれません。
相続人の範囲は民法で明確に定められていますが、実際の相続では、亡くなった人よりも子が先に亡くなっている場合などイレギュラーなケースもありますので誰が相続人になるか判断する際は、民法の規定のもと慎重に確認する必要があります。
相続人の調べ方
相続人の調べ方は、以下の3ステップで行います。
ステップ1:
役所で、亡くなった人の戸籍全部事項証明書、戸籍謄本、除籍全部事項証明書、除籍謄本、改製原戸籍(以下「戸籍謄本等」という。)を取得
ステップ2:
取得した戸籍謄本等から、相続関係を把握
ステップ3:
相続人の人数や法定相続分を把握するために、必要に応じて前本籍地の戸籍謄本等を取得
相続人調査に必要な戸籍は、戸籍謄本以外にも、除籍謄本や改製原戸籍が必要になるケースもあります。
それぞれの違いは、以下のとおりです。
戸籍謄本:
戸籍に記載されている内容すべてを写したものであり、亡くなった人だけでなく、その戸籍に入っている全員の情報が記載されています。
除籍謄本:
戸籍に記載されていた人すべてが婚姻や死亡により、その戸籍からいなくなったときは、その戸籍は除籍となります。
改製原戸籍:
コンピュータ化に伴う戸籍の様式変更など、戸籍が新たな様式に切り替わった際にもとになったものが改製原戸籍と呼ばれます。
相続人調査にかかる期間は、自分で行う場合も専門家に依頼する場合も、ある程度の日数を要します。
相続人の範囲と法定相続分
相続人の範囲
民法では、相続人となり得るのは「配偶者」「子、直系尊属、兄弟姉妹」と定められています。
優先順位の上位の人がいれば、下位の人は相続人になることができません。
民法では、亡くなった人の配偶者は常に相続人となるものと定めているほか、以下のとおり定めています。
第一順位 子
第二順位 直系尊属(父母、祖父母、曾祖父母など)
第三順位 兄弟姉妹
第一順位、第二順位、第三順位という用語は相続人となる優先順位を分かりやすく表現するために使用していますが、亡くなった人よりも子が先に亡くなっている場合などイレギュラーなケースでは民法に詳細な規定がありますので、誰が相続人になるか慎重に確認する必要があります。
法定相続分
民法で以下のとおり定められています。
父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の場合などは別に定めがありますので注意してください。
配偶者及び子が相続人の場合 2分の1ずつ
配偶者及び直系尊属が相続人の場合 配偶者3分の2、直系尊属3分の1
配偶者及び兄弟姉妹が相続人の場合 配偶者4分の3、兄弟姉妹4分の1
代襲相続
相続人となるはずだった人が相続開始より前に亡くなっていた場合、相続人となるはずだった人の相続人が代わって相続をすることができるケースがあります。
主なケースは以下の2つです。
1. 第一順位の相続人である子が、亡くなった人よりも先に亡くなっていたケース。子が相続するはずだった相続分は子の子(亡くなった人の孫)が代襲相続をします。
2. 第三順位の相続人である兄弟姉妹が、亡くなった人よりも先に亡くなっていたケース。兄弟姉妹が相続するはずだった相続分は兄弟姉妹の子(亡くなった人の甥または姪)が代襲相続をします。兄弟姉妹の場合、さらなる代襲相続は発生しません。
相続放棄
相続人は、自らの意思で相続人としての地位から離脱することができます。
相続の放棄をするためには、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、亡くなった人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対し「相続放棄をする旨の申述」をする必要があります。ただし、3か月の熟慮期間中に放棄するか否か決定できない場合には、家庭裁判所への申立によりこの期間を伸長することもできます。詳しくは司法書士に相談しましょう。
相続放棄をした人は、初めから相続人とならなかったものとみなされますので、相続放棄をした人の子には、代襲相続は発生しません。
第一順位の相続人である子が全員相続放棄をした場合、相続人たる地位は第二順位の直系尊属、第三順位の兄弟姉妹へと移っていきます。
相続人の欠格事由
民法では相続人として不適格な人を相続人の欠格事由として定めています。
欠格事由に該当する人は当然に相続人の資格を失いますが、欠格事由に該当する人に子がいるときは代襲相続の規定を適用することになります。
民法第891条に規定されている相続人の欠格事由には、次のようなものがあります。
・故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
・被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
・詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
・詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
・相続に関する被相続人の遺言書を改ざん、変造し、破棄し、又は隠匿した者
推定相続人の廃除
相続が開始した場合に相続人となるべき人(推定相続人)を、家庭裁判所の審判により相続開始前に相続関係から廃除する手続があります。
推定相続人が被相続人となるべき人に対して虐待や重大な侮辱を加えたときなどに、被相続人となるべき人は家庭裁判所に推定相続人の廃除を請求することができます。
家庭裁判所において廃除の審判がなされたときは、審判の対象者は相続人から廃除されますが、廃除された人に子がいるときは代襲相続の規定を適用することになります。
被相続人は遺言で推定相続人を廃除する意思を表示することも可能です。
民法第892条に規定されている相続廃除事由には、次のようなものがあります。
・被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき
・推定相続人にその他の著しい非行があったとき
遺産分割協議について
相続人は、亡くなった人が保有していた現金、預貯金、土地、建物など、原則としてすべての財産や権利・義務を承継することになります。
遺産分割協議は、遺産の全部について各相続人の年齢、職業、生活の状況などを考慮して相続人全員で行います。
遺言書があるときは遺言の内容に従って相続することになります。
遺言書の重要性、書き方のポイント、メリット・デメリットなどを知りたい方は、「あって良かった遺言書」の記事をご覧ください。
以下で相続人の協議により行う遺産分割について詳しく解説します。
相続する財産の範囲
相続では、亡くなった人の財産だけでなく、借金や連帯保証人の地位なども引き継ぎます。
具体的には、以下のようなものが相続の対象となります。
・現金、預貯金、土地、建物などの財産
・借金、ローン、クレジットカードの未払い金、医療費、入院費用などの債務
・連帯保証人の地位
・賃貸借契約における借主としての地位
ただし、相続放棄をすることで、相続関係から離脱することができるのは前に述べたとおりです。
また、資格や運転免許、生活保護の受給権などは「一身専属権」に該当するため相続されません。
一身専属権とは、その人の人格や身分等と密接に関わりがあるため、他の者に譲渡や承継することができず、その人のみが行使できる権利のことです。
一身専属権は、その権利の内容によって、以下の2種類に分けられます。
種類 | 内容 |
---|---|
行使上の一身専属権 | 行使上の一身専属権とは、その権利を自由に行使するか否かは、その権利者個人の意思に委ねられる権利です。例えば、離婚請求権は、行使するか否かについて、その権利者本人のみが決めることができます。 |
帰属上の一身専属権 | 帰属上の一身専属権とは、その権利がその権利者本人に固有のものであり、他の人に譲渡や承継することができないことを意味します。例えば、親権や養育権は、その親や養親本人に固有の権利です。 |
一身専属権は、その権利の性質上、相続の対象となりません。
不動産評価基準の具体例
親が亡くなり、相続財産が実家の不動産と預貯金6,000万円のケースで、長男と二男の2人が相続人になったとします。
不動産の評価を固定資産評価額4,000万円として遺産分割協議を行う場合を考えます。
固定資産評価額は、公的な基準に基づいて算出されるため、相続人全員が納得しやすい評価方法です。
相続財産は不動産と預貯金の合計1億円となります。
上記のケースで、長男が不動産及び預貯金1,000万円を相続することとした場合、金銭評価すると長男は5,000万円を相続することとなります。
一方で、二男は預貯金5,000万円を相続することとなります。
ここで、不動産の実勢価格(時価)が5,000万円だとします。
そうすると、預貯金と合わせ積極的な相続財産は1億1,000万円になります。
上記と同様に、長男が不動産及び預貯金1,000万円を相続することとした場合、長男は合計6,000万円の財産を相続することとなります。
二男は、先のとおり、預貯金5,000万円を相続することとなります。
先の例と比較し、長男が有利になっているようにも考えられます。そのため、相続人同士で争いになるケースもあります。
不動産の評価額の算出方法は、実勢価格だけでなく、公示地価、相続税評価額、固定資産税評価額があります。
遺産分割において不動産を評価する場合には慎重に行いましょう。
実勢価格5,000万円を基準に遺産分割協議を行うのであれば、長男が不動産及び預貯金500万円、二男が預貯金5,500万円を相続するのであれば、不公平感が生じにくいかもしれません。
ただし、実勢価格は、需要と共有のバランスによって変動するため、相続人同士で協議の上、納得できる遺産分割を行うことが重要となります。
相続手続について
最後は、相続手続についてご紹介します。
遺言書と相続手続
遺言書がある場合は、遺言書が相続財産の分配を決めるものになるため、遺産分割協議書は不要です。
自筆証書遺言書の場合は、遺言書を持って家庭裁判所へ行き、検認手続を行います。
なお、自筆証書遺言書保管制度を利用し、法務局で保管されている遺言書は、家庭裁判所における検認手続を行う必要はありません。
相続放棄と相続手続
相続放棄は、相続人1人でも行うことができる手続です。
相続放棄は、自分のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所に申述する必要があります。
複雑な状況やトラブルがない場合は、自分で相続放棄の手続を行うことも可能ですが、相続開始から3か月以上が経過している、債権債務関係が複雑である等の場合、専門的な知識が要求されるため、不安な場合は司法書士に相談しましょう。
まとめ
相続人は、亡くなった人が遺した財産を承継する人のことであり、配偶者は常に相続人となるほか、原則として子・直系尊属・兄弟姉妹のうち順位が最も高い人が相続人になります。
相続の割合は、以下のとおりです。
1.配偶者:
2分の1、 子:2分の1(子が複数の場合は、原則として、人数に応じて按分)
2.配偶者:
3分の2、直系尊属:3分の1(直系尊属が複数の場合は、人数に応じて按分)
3.配偶者:
4分の3、兄弟姉妹:4分の1(兄弟姉妹が複数の場合は、人数に応じて按分)
相続登記手続を始めとした相続関係手続は、法律の知識がないと判断が難しいケースが多く手続に時間が取られてしまいます。
どこから手をつけたら良いか分からない方は、司法書士に相談することで、相続登記手続を始めとした相続関係手続をスムーズに進めることができます。