不動産が所有者不明になると何が問題なのですか?
【前置き】
令和6年4月1日、相続登記の申請が義務化されたことについては、多くの方がご存じだと思います。その一方で、なぜ相続登記の申請が義務化されたのか、なぜ相続登記の申請をしなければならないのかという理由については、ご存じない方もいらっしゃるかもしれません。
相続登記がなされずそのまま放置されると、その不動産の所有者が誰なのか、年月が経過していけばいくほど、分からなくなってしまいます。これが相続登記の申請義務化の議論において考えられた大きな問題であり、相続登記の申請が義務化された理由です。
では、なぜ「不動産の所有者が誰か分からないと困る」のでしょうか。この記事ではその理由と、対策として私たちができることについてお話しいたします。
【所有者不明になって困ること】
1 近隣の人が困る
所有者不明の土地や建物は、誰のものであるか分からない以上、土地や建物の管理が適切に行われないことが考えられます。土地であれば草や木が生い茂り荒れ放題になるおそれがありますし、建物であれば朽ちてきて崩れそうになったり、屋根や壁が取れて事故や怪我の原因になったりします。そのほか、第三者が空き家に勝手に住み着くことで治安の悪化に繋がったり、野生動物が住み着いて不衛生の元凶になったりもします。その結果、周辺環境の悪化に繋がり、近隣の人が大きな迷惑を被り、困ることになります。
2 工事や開発で困る
土砂対策などの自然災害対策工事を行ったり、新しい橋や道路を作ったりといった都市開発を行政が進める際、その工事や開発にかかる隣地の所有者が不明だと、工事や開発の確認が取れず手続を進めるのに困難を伴うことになります。例えば、①台風や大雨で崩れた崖や堤防の補修工事が、隣地所有者が不明で承諾をもらうことができず、いつまで経っても進まない、②渋滞を緩和するために新しい橋を架けようとしたが、建設予定地の所有者が不明で収用が進まず、いつまで経っても着工ができない、そのようなことが現実に起きています。このような手続が進まないことで地域全体が災害や渋滞といった大きな不利益を被ることになります。
【なぜ所有者不明土地になるのか-その対策】
所有者不明土地の発生原因については、相続登記がなされないまま放置されていたのが主な理由だと考えられ、結果として先述の相続登記の申請義務化に繋がりました。ですが、相続登記がそもそもされなかった理由として、手続が困難なため放置されていたケースが多くあります。相続登記を困難なものにしないために、いまできる対策についても紹介します。
1 遺言書を作る
相続登記が困難になる理由の一つとして、相続人が何らかの理由で行方不明だったり、連絡を取ることが困難だったり、認知症などで遺産分割ができない場合などが挙げられます。特に子どものいない夫婦の場合、相続人が兄弟姉妹や甥姪になる場合が多くなります。また、子どもが海外に行ってしまって行方不明だったり、失踪してしまったり、認知症や知的障がいなどの理由で判断能力の不十分である場合に相続登記が困難になることが多いです。このような場合、事前に遺言書を作っておくことで、相続登記ができなくなることを避けられます。
2 相続土地国庫帰属制度を利用する
もう一つの理由として、「遠くに住んでいて利用する予定がない」、「管理が必要で負担が大きい」不動産について、誰も相続したくなくて、相続の話が相続人間でまとまらない場合も考えられます。そのような土地を手放したいというニーズに対応するため、一定の要件を満たす相続した土地を国に帰属させることができる相続土地国庫帰属制度が開始しています。相続財産に利用困難な不動産があった場合、相続土地国庫帰属制度を利用することで、相続人の誰かが所有者になるのではなく、不動産の所有権を国庫に帰属させることができる場合があります。
【結びに】
相続登記の申請義務化は、所有者が不明となった不動産が社会全体に大きな損害を与えるおそれがあるため、その防止策として施行されました。不動産の所有者が不明になることにより誰かが損害を被ることのないよう、相続登記を迅速に申請することができるように準備をしておくことはとても大切です。
司法書士は身近なくらしの法律家として、このような相続登記申請の手続に関する相談を日々承っております。この記事を読んで少しでも気になった、心配になった、考えてみようと思われたら、是非お近くの司法書士にご相談ください。