相続人申告登記をやってみよう!!
はじめに
2024年4月1日から相続登記の申請が義務化されました。これにより、相続が開始され、遺産に不動産がある場合、その相続人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならないことになりました。相続人であることの申出(以下「相続人申告登記」という。)の詳細については、2024年4月26日付けの「しほサーチ」の記事に詳しく触れていますので、ぜひ参考にしてください。今回は、相続人となったときに、(司法書士などの専門家に依頼しないで)自らその手続をすることについてお話していきたいと思います。
相続人であることを知る
誰もが相続人になる可能性があります。例えば、親が亡くなったときには、その子どもは、自分が相続人であるという認識は持っているかと思います。しかしながら、例えば自分の叔父又は叔母が亡くなったときなどは、自分が相続人になるとは考えていない場合があると思われます。その叔父又は叔母に配偶者や子ども(第一順位)がいない場合には、その尊属である父母(第二順位)が相続することになります。そして、その父母がすでに亡くなっている場合には、叔父又は叔母の兄弟姉妹(第三順位)が相続人となり、その兄弟姉妹のうちすでに亡くなっている者がある場合は、その子ども(代襲相続人)が最終的には相続人となることがあります。したがって、このような場合は自分の叔父又は叔母の相続人となる場合があるということになります。亡くなった叔父又は叔母と疎遠だったような場合は、被相続人が亡くなって、数か月又は数年経過して自分が相続人であることを知ることも想定されます。その場合、司法書士や弁護士などから、あなたが相続人であり、遺産に不動産がありますので、相続をするかどうかの意向を聞かれることがあります。そして、その不動産の価値が低廉な場合や自らが利用することが想定しない場合については、遺産分割協議にて、相続をしないことに同意する場合があります。一方で、遺産分割協議は、相続人全員が参加しなければならないので、すぐに遺産分割協議が進まないような場合は、本稿における相続人申告登記の検討をすることになります。したがいまして、自分が相続人であるかどうかを知るということは、ある日突然に生じることがありますので、参考にしてください。なお、遺産分割協議書を作成する場合は、相続人として、署名・捺印をすることになっています。この捺印については、いわゆる実印でなければなりません。また、それが実印であることを証するものとして、印鑑証明書を添付することになります。
相続するかどうかを判断する
遺産を相続するかどうかは、その遺産の範囲やその内容をよく知らなければなりません。遺産には、不動産や預貯金のようなプラスの財産も有りますが、借金や保証債務のようにマイナスの財産も有ります。また、不動産の場合であっても都会にあるマンションの場合や田舎にある原野のような場合もあります。したがって、遺産の価値にかかわらず、相続をしたい場合もありますが、同様に相続をしたくない場合もあります。前者の場合は、遺産分割協議をして、他の相続人の承諾が得られたら、相続登記を申請することになります。後者の場合も遺産分割協議をして、自ら相続持分を取得しないということもできますが、他の相続人間において協議がまとまらない場合は、自ら家庭裁判所に申立てをして、相続放棄の申述をすることも考えられます。相続放棄をした場合は、最初から相続人ではなかったことになりますので、他の遺産についても一切相続をすることができないことに注意しなければなりません。
家庭裁判所に相続放棄の申立てをする場合は、被相続人が亡くなったことが分かる除籍・戸籍謄本等と自分がその相続人であることが分かる除籍・戸籍謄本等を提出する必要があります。申立書は裁判所のHPを参照してください。相続放棄の申立ては、被相続人が亡くなり、自分が相続人であることを知ったときから3か月以内にしなければなりません。前述したように、被相続人が死亡したのち数か月又は数年経過して、自分が相続人であることを知ることもありますが、そのような場合でも相続放棄の申立てをすることができる場合がありますので、司法書士や弁護士にご相談することをお勧めします。
相続人申告登記の判断をする
相続登記の申請を行わないことについて「正当な理由」があれば、過料が科せられることはありません。それでは、どのような場合が「正当な理由」とされているのか確認したいと思います。「正当な理由」として法務省が説明している内容は、下記のとおりです。
(1) 相続登記の義務に係る相続について、相続人が極めて多数に上り、かつ、戸籍関係書類等の収集や他の相続人の把握等に多くの時間を要する場合
(2) 相続登記の義務に係る相続について、遺言の有効性や遺産の範囲等が相続人等の間で争われているために相続不動産の帰属主体が明らかにならない場合
(3) 相続登記の義務を負う者自身に重病その他これに準ずる事情がある場合
(4) 相続登記の義務を負う者が配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(平成13年法律第31号)第1条第2項に規定する被害者その他これに準ずる者であり、その生命・心身に危害が及ぶおそれがある状態にあって避難を余儀なくされている場合
(5) 相続登記の義務を負う者が経済的に困窮しているために、登記の申請を行うために要する費用を負担する能力がない場合
したがって、上記のような事情などがある場合は、法務省から連絡があったとしても、その事情を連絡することが大切なことかと思われます。
しかし一方では、不動産の価格が低廉であり、管理費用も相当負担が予想されるような場合や3年の期間が過ぎそうなとき、遺産分割協議に時間がかかりそうな場合などは、相続人申告登記を検討することになるかと思われます。このようなケースでは、相続手続をせずに、相続人申告登記をしておくことにより相続登記の申請義務を免れることができます。よって、みずから相続人申告登記をするかどうかについては、以上の正当な理由などを見極めることにより、判断ができるかと思います。
必要な書類を集める(広域交付制度の利用)
前述したように、被相続人が死亡したことや自分が相続人であることを証明する書類は、除籍・戸籍謄本等になります。これらは本籍がある市区町村の窓口に赴いて請求書を提出し、費用を支払うことにより取得することができます。したがって、本籍地が遠方にある場合などは、郵送により請求することになります。本籍地のある市区町村に請求書を送る場合は、必要な手数料相当額の小為替を郵便局で購入して同封することになります。本籍地のある市区町村の住所や請求書などはHPに掲載されていますので、事前に参考にするとよいでしょう。
また、2024年3月1日から広域交付制度が始まりました。この制度は、本籍地以外の市区町村の窓口でも、戸籍証明書・除籍証明書を請求できるという制度です。これによって、本籍地が遠くにある方でも、最寄りの市区町村の窓口で請求することができるようになりました。したがって、取得したい除籍・戸籍謄本等の本籍地が全国のいろいろな場所であったとしても、1か所の市区町村の窓口でまとめて請求することができますので、是非ご利用ください。ただし、この請求は、コンピュータ化されている除籍・戸籍謄本等が対象となっています。また、一部事項証明書、個人事項証明書は請求することはできません。また、請求することができる相続人等の本人が窓口に行く必要があり、郵送や代理人による請求はできないことになっています。広域交付制度を利用する場合は、本人確認のため、運転免許証・マイナンバーカード・パスポートなどの顔写真付きの身分証明書を提示しなければなりませんので、事前に準備することをお勧めします。詳しくは請求する市区町村の窓口に確認しておくとよいでしょう。
申出書を作成する
相続人であることの申出情報記載例
登記の目的 相続人申告
甲野太郎の相続人
相続開始の年月日 令和6年11月11日
〇県〇市〇町〇丁目〇番地
(申出人) 甲野 一郎
(氏名 ふりがな こうの いちろう)
(生年月日 昭和34年5月6日)
添付情報
申出人が所有権の登記名義人の相続人であることを証する書面
住所証明情報
令和6年12月12日申出 〇〇法務局 御中
不動産の表示 (不動産番号を記載した場合は省略することができます。)
所 在 〇〇市○○町〇〇丁目
地 番 123番
所 在 〇〇市○○町〇〇丁目123番地
家屋番号 123番
この申出書は、甲野太郎が亡くなり、その子である甲野一郎が、甲野太郎が所有していた不動産について、相続人申告登記をする例です。
申出をする
作成した申出書及び添付書面を、申出をする不動産の所在地がある管轄の法務局(登記所)の窓口に持参する方法と郵送する方法があります。郵送する場合は、申出書及び添付書面を入れた封筒の表面に「相続人申出書在中」と記載することになっています。また、郵送は書留郵便により送付することとなっています。郵送する法務局(登記所)は、法務局のHPにて確認することができます。
登記事項証明書を取得する
相続人申告登記をした場合は、申出人に対し、登記所から登記が完了した旨の通知書が交付されることになっています。通知書は、登記所の窓口で受領することができます。この場合は、運転免許証等の本人確認書面が必要となります。もし、郵送を希望する場合には、予め宛名を記載した返信用封筒及び書留郵便に必要な郵便切手を申出書とともに提出することによって、郵送で受け取ることができます。なお、相続人申告登記完了後、3か月を経過しても受領しなかった場合には通知書が廃棄されることになっていますので、ご留意ください。
相続人申告登記の効力
相続人申告登記は、権利関係を公示するものではありません。あくまでも自分が相続人であることを公示することにより、相続登記の申請義務を免れるという効力があるだけです。そのため、相続人申告登記をしたからと言って、相続した不動産を売却したり、抵当権の設定をしたりすることはできませんので、ご留意ください。
まとめ
従来の制度では、遺産分割協議がなされていない場合、相続登記の申請義務を履行する方法は、「法定相続による登記」しかありませんでした。現在でもこのような申請は可能ですが、相続人全員の共有名義となるため、売買などの処分をする場合には、相続人全員の同意が必要となります。また、遺産分割協議が成立したとしても、被相続人の出生から死亡までの除籍・戸籍謄本等のすべてと相続人全員の戸籍謄本等を提出しなければなりません。したがって、国民の負担を軽減するために、簡便な制度として設けられたのが相続人申告登記ということになります。この申出は、各相続人が個別にすることができるため、他の相続人の同意を得る必要はありません。
相続登記の申請義務化によって、自分が相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内に、原則として相続登記をしなければならず、相続登記の申請を怠った場合には10万円以下の過料の対象となりますので、相続登記の申請義務を免れる方法として、相続人申告登記があることをご理解いただければと思います。
最後に法務省のHPをご紹介しておきますので、ご参考にしてください。
法務省:相続人申告登記について (moj.go.jp)
https://souzoku.shiho-shoshi.or.jp/wp/login_69139