はじめに

「誰も住んでいない実家を相続したけれど、古くて売れそうにない」
「登記を調べたら、名義が祖父のままだった。何から手をつければよいのか分からない」

 このようなお悩みをお持ちではないでしょうか。
 親が暮らしていた家が空き家になり、そのまま年月が過ぎてしまうことは珍しくありません。しかし、2024年(令和6年)4月1日から相続登記の申請が義務化され、さらに空き家に対する行政の対応も強化されています。古い空き家を「とりあえずそのまま」にしておくことには、思わぬリスクが潜んでいます。
 この記事では、古い空き家を相続したときに確認すべきこと、放置した場合のリスク、そして空き家の「手放し方」までを、司法書士がわかりやすく解説します。

第1章 古い空き家を相続したら、まず確認したい3つのこと

1.登記の名義は誰になっているか

 まず、法務局で登記事項証明書(=不動産の持ち主などが記載された公的な証明書)を取得し、名義を確認しましょう。古い家では、亡くなった親ではなく、祖父母や曽祖父母の名義のままになっていることがよくあります。
 この場合、相続が何回も重なった「数次相続」の状態になっており、手続に関わる相続人の数が多くなりがちです。詳しくは本サイトの「数次相続」の記事もご参照ください。

2. 建物がそもそも登記されているか

 古い建物の中には、建てたときに登記をしていない「未登記建物」があります。また、増築した部分だけが登記されていないケースもあります。登記の有無は、売却や解体の手続にも影響します。

3.いつ建てられた家か

 1981年(昭和56年)5月31日以前に建てられた家は、古い耐震基準で建てられている可能性があります。倒壊のリスクを考えるうえでも、第4章でご紹介する税の特例を使えるかどうかを判断するうえでも、建築時期は大切な情報です。

第2章 空き家でも相続登記は「義務」です

 「住んでいないし、売る予定もないから」と、空き家の名義変更を後回しにしていませんか。
 不動産登記法第76条の2により、相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請することが義務付けられました。正当な理由なく申請を怠った場合、10万円以下の過料(かりょう)(=行政上のペナルティ。刑事罰ではないため前科はつきません。)の対象となります(同法第164条第1項)。

【注意点】義務化される前に起きた相続も対象です。この場合の期限は、原則として2027年(令和9年)3月31日までです。

 例えば、20年前に亡くなった祖父名義の空き家を、そのままにしているケースも義務の対象になります。
 なお、遺産の分け方がすぐに決まらないときは、「相続人申告登記」(=自分が相続人であることを法務局に申し出る簡単な手続)をすることで、ひとまず義務を果たすことができます(同法第76条の3)。ただし、この手続で名義が変わるわけではない点にご注意ください。

第3章 古い空き家を放置する4つのリスク

リスク1 固定資産税の負担が増える

 住宅が建っている土地には、固定資産税を最大6分の1まで軽くする「住宅用地の特例」が適用されています。
 ところが、2023年(令和5年)12月13日に施行された改正「空家等対策の推進に関する特別措置法」により、放置すれば危険な状態になるおそれがある空き家は「管理不全空家等」として、市区町村から指導・勧告を受けることになりました。勧告を受けると、この特例が受けられなくなり、土地の固定資産税が大きく増える可能性があります。倒壊などの危険が高い「特定空家等」についても同様です。

リスク2 倒壊や瓦の落下で損害賠償を求められる

 古い空き家は、台風や地震で屋根瓦が飛んだり、塀が倒れたりする危険があります。民法第717条により、建物の所有者は、自分に落ち度がなくても、通行人や隣の家に与えた損害を賠償する責任を負うことがあります。

リスク3 相続人が増えて、話し合いがまとまらなくなる

 相続登記をしないまま時間がたつと、相続人が亡くなるたびに、その子どもたちが新たな相続人として加わります。
 例えば、祖父名義の空き家について、祖父の子である3人きょうだいのうち2人がすでに亡くなっていると、そのきょうだいの配偶者や子どもたちも相続人になります。会ったこともない親族を含めて、全員で遺産分割協議(=相続人全員で財産の分け方を話し合う手続)をしなければならず、一人でも反対すれば手続が進みません。

リスク4 売りたいときに売れない

 相続登記をしていない家は、売ることができません。また、古い家の中には、敷地が道路に十分に接していないため、建築基準法上、今の家を取り壊すと新しく建て替えられない物件もあります。いざ売ろうとしたときに買い手が見つからない、ということも起こりえます。

第4章 古い空き家の「出口」を考える

 空き家は、持ち続けるだけでも管理の手間と費用がかかります。早い段階で「どうするか」を考えておくことが大切です。

ケース1 売却する

 売却するには、まず相続登記を済ませる必要があります。
 また、1981年(昭和56年)5月31日以前に建てられた家を相続し、一定の要件を満たして売却した場合には、売却益から最大3,000万円を差し引ける税の特例(被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例)があります。この特例は2027年(令和9年)12月31日までの売却が対象です。適用できるかどうかは要件が細かく定められていますので、詳しくは税理士や税務署にご確認ください。

ケース2 土地を国に引き取ってもらう

 2023年(令和5年)4月27日から、「相続土地国庫帰属制度」(=相続した不要な土地を、一定の要件のもとで国に引き取ってもらう制度)が始まりました。

【ポイント】建物が建っている土地は、この制度の対象になりません。空き家を解体して更地にしたうえで申請する必要があります。また、審査手数料のほか、原則20万円の負担金(=10年分の土地管理費に相当する金額)を納める必要があります。

ケース3 相続放棄する

 空き家以外にめぼしい財産がない場合には、相続放棄(=遺産も借金も全部受け取らないと宣言する手続)も選択肢の一つです。原則として、自分が相続人になったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所で手続をする必要があります(民法第915条)。

【注意点】相続放棄をしても、放棄の時点で空き家を現に占有している(=実際に使ったり管理したりしている)方は、ほかの相続人や相続財産清算人(=家庭裁判所が選ぶ、財産を管理・清算する人)に引き渡すまでの間、その家を保存する義務が残ります(民法第940条)。また、相続放棄をすると、空き家だけでなく預貯金などすべての財産を受け取れなくなります。詳しくは本サイトの「相続放棄」の記事もご参照ください。

よくあるご質問

Q. 空き家の名義が曽祖父のままです。今からでも登記できますか?
A. できます。何代前の名義であっても、戸籍謄本等をさかのぼって集め、相続人を確定すれば手続は可能です。ただし、相続人の数が多くなりやすいため、早めに司法書士にご相談ください。

Q. 遠方に住んでいて、空き家の様子を見に行けません。どうすればよいですか?
A. まずは相続登記を済ませ、ご自身が責任を持って判断できる状態にしておくことが大切です。そのうえで、売却や国庫帰属制度の利用など、空き家の「出口」を早めに検討されることをおすすめします。

おわりに

 古い空き家の相続について、ポイントをまとめます。
 ・まずは登記事項証明書で、名義や建物の登記の有無を確認する
 ・空き家であっても相続登記は義務であり、正当な理由なく放置すると10万円以下の過料の対象になる
 ・放置すると、固定資産税の負担増や損害賠償などのリスクがある
 ・売却、相続土地国庫帰属制度、相続放棄など、空き家を手放す方法もある

 古い空き家の相続は、名義が何代も前のままであったり、相続人が多数にのぼったりと、手続が複雑になりがちです。しかし、法律で用意された制度を正しく使えば、解決への道は必ずあります。時間がたつほど手続は難しくなりますので、まずは第一歩を踏み出すことが大切です。
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